色覚バリアフリー

 始めに言っておくが、私は色盲ではない。

 もう何年も前になるが、学会発表でプレゼンを行うようになってしばらくした時、次のようなページを見つけた。

色盲の人にもわかるバリアフリープレゼンテーション法
http://www.nig.ac.jp/color/

見つけたというよりは意図的に調べたわけだが、色盲の人の割合がここまで多いというのには驚いたものだ。男性 5% というと、男女混合 40 人クラスの中に 1 人くらい色盲の男性がいてもおかしくない計算だ。赤チョークで書かれた文字が見えにくいと言ってた人がいた気がするが、あれは色盲だったのだろうか。もしかしたら最近の教員免許を取ってる人ならこの辺教わってるのかも知れない。
 AB型の人が 10% 程度という事を出すまでもなく、5% という数字はかなり多い。このことから、色盲は主に遺伝により発生する事が想像付くだろう。突然変異ではこんな大きな数字は出ない。女性の色盲に関しては X染色体不活性化現象が絡むため簡単な話にはならないが、400 人に 1 人は普通の色盲であると言われている。また、普通の色盲以外に「モザイク色盲」というものもあるらしい。

http://www1.accsnet.ne.jp/~cms/letter/letter-15.htm
http://www.nig.ac.jp/color/barrierfree/barrierfree1-6.html

女性は色盲が少ないと思われているが、モザイク色盲を含めるとどうなるのかはよく分からない。
 なお、色盲のほとんどは赤と緑のあたりの色が区別し辛い赤緑色盲である。赤緑色盲は、赤錐体のない色盲(第一色盲)と緑錐体のない色盲(第二色盲)に分けられるが、見え方はあまり変わらないらしい。青錐体のない青黄色盲(第三色盲)は稀である。青黄色盲という名前だが、青と黄色は普通に区別できる点に注意。その間にある青と緑あたりは区別し辛いらしい。また、後天的な色盲というのも存在するが、その場合は青黄色盲の方が多いようだ。
 遺伝的性質の獲得は、「何らかの突然変異が自然淘汰されることなく残った」ことによるものと考えられている。血液型を見れば分かるように、環境が同じであっても自然淘汰されない遺伝的性質は一つとは限らない。色盲の人がこれ程多いということは、色盲自然淘汰されなかったということを意味する。そもそも、ほとんどの哺乳類が錐体細胞が2種類しか無く、その程度では自然淘汰される程困りはしないのだ(人間の中ではマイノリティーにはなってしまったが)。こうなると、色盲は「障害」だの「異常」だのではなく、血液型みたいにごく普通の性質であると言える。
 これだけ色盲の人が多いということは、色覚検査を実施している会社の採用担当者以外には、おそらくあまりよく知られていない事実だろうと思う。AB 型並にありふれた性質であるにも関わらず、である。そのためなのか、色々なプレゼンを見ていても、案内板を見ていても、あるいは Web サイトを見ていても、「色盲の人が見たらどうなんだろうなぁ」と思うようなものであふれている。あふれすぎている。当然ながら、ファッション等、この世のあらゆるものを色盲の人に合わせる必要は無いが、プレゼンや案内板のように見る人全てに理解させる必要があるものは当然考慮されてしかるべきだろう。これを「色覚バリアフリー」と呼ぶ。
 色覚バリアフリーを達成するには、いくつかのガイドラインが存在する。

1. 可能な限り色相以外の情報で区別させる。

 色の濃さ、あるいは色以外の情報で区別させるということである。これが色覚バリアフリーにおける原則である。例えばグラフでは、線の色だけで区別させるのではなく、線の種類やプロットした点の形でも区別できるようにする。塗りつぶしの場合は、ハッチング(網かけ)で区別できるようにするか、色の濃さを変化させればいいだろう。棒グラフや円グラフの場合、凡例は直接グラフに書き込むべきである。LED ランプの場合、点灯/消灯で区別させるべきだろう。文字の場合、文字の太さを変えたり下線を引いたりするべきだろう。
 当然ながら、このような工夫をしておけば、別に色を様々に変える事自体は構わない。その方が、色盲でない人にはより分かりやすいだろう。ただ、その情報は色盲の人には与えられないかもしれない。可能な限り色盲の人にも色情報を与えたい場合は、「色盲シミュレータ」を使うといいだろう。以下のものが有名みたいである。

ColorDoctor
http://design.fujitsu.com/jp/universal/assistance/colordoctor/

Vischeck
http://www.vischeck.com/

Colorfield Insight
http://www.colorfield.com/

プレゼンや各種デザインの配色を決める際に、これらのソフトを使ってみるといいだろう。

2. 色盲でも色盲でなくても区別しやすい2色(緑と紫)を使用する。

 どうしても色相で区別する必要がある場合、色盲でも色盲でなくても区別しやすい配色にすべきである。そのような配色として、緑と紫が推奨されている。
 LED ランプで赤と緑の切り替えで何かを知らせるものもあるが、青色 LED が発明された現在では、緑と紫(赤+青)にした方がいいだろう(点灯/消灯の2通りでは困る場合は、だが)。
 レーザーポインタも、赤いレーザーポインタは第一色盲の人には非常に見えにくいらしい。緑のレーザーポインタは第二色盲の人でも見えやすく(赤錐体で見えるから)、緑のレーザーポインタが推奨される。


 「ロベールの C++ 教室」は残念ながら色覚バリアフリーを知る前だったので、強調部分は文字を赤に変えているだけである。これでは第一色盲の人は強調が分からないかもしれない。しかし、「東方弾幕風講座」では純粋な赤ではなく青を混ぜて赤紫にし、さらに strong(太字)にしている。これが色覚バリアフリーの一例である。
 みんなも一度自分のプレゼンや Web サイトを見直してみるといいだろう。あるいは仕事で作っている Web サイトでもいい。意外と色覚バリアフリーに反している点がボロボロと出てくるかもしれないぞ。