グラスマン数の実行列表現
グラスマン数 (Grassmann number) というのは でないけど二乗すると になり、異なるグラスマン数同士は全て反交換する、という数のことである。
目立つ性質なので冪零性を先に話したが、冪零性は反交換関係から自然に要求されるものである。つまり、 なので となるわけだ。自分自身とも反交換することが要求されるのである。これに対しクオータニオン単位は自分自身とは交換するので、グラスマン数にはならない。
複素数やクオータニオン以上に奇妙な数に見えるが、物理で実際に使われている、実用的な数である。
これも実行列で表す事ができればもっとグラスマン数に親しみが持てる気がするが、可能なのだろうか? 今日はそんなことを考えてみたいと思う。
まずは簡単な例として、グラスマン数の基底が1つの場合を考える。つまり、グラスマン数同士の交換は考えない。また、複素数は考えない。
この場合、グラスマン数を行列を使って表現するのは簡単だ。二乗して になる行列なら何でもいいからだ。例えばこんな感じである。
これが、実数とグラスマン数の線形結合で作られる数と対応する行列になる。
次は、グラスマン数が2つの場合を考えてみる。
は の線形結合で表せる数ではないので、 に相当する行列は と に相当する行列と に相当する行列の線形結合で表す事ができてもいけない。そう考えると、 以外に の3つの基底が存在することになる。
直感的に考えると、3つの冪零な基底があるのなら少なくとも3×3行列で考える必要がありそうだと思われる。そこで、 と に対応する行列を以下のように仮定する。
すると、
となり、
となる。これを満たせば何でもいいはずだ。そこで、なるべく綺麗な行列を考えるため、次のような行列を としてみよう。
すると
となり、ちゃんと反交換関係が成り立つ事が分かる。特に問題はなさそうだ。
以上をまとめると、グラスマン数を2つ考えた場合の数は、行列では
と表せる事が分かる。このように、三角行列になるわけだ。そして、実数項を除いてグラスマン数の部分のみを考えると、対角要素のない三角行列になる。(しかも、対角要素のない三角行列全てが表現可能である。)こんな感じにもの凄く偏った行列であれば、グラスマン数のような性質を持っていてもおかしくはないとイメージできるのではないだろうか。
実グラスマン数が2つ揃ったので、次は複素グラスマン数を考えてみよう。複素グラスマン数は2つの実グラスマン数 から
と構成する。さっき作った を に対応させれば、複素グラスマン数は
のように表す事が出来る。あとは実行列で扱うために、 を実行列表現にしてやれば良い。6×6行列になって面倒なので書かないが。
ただ、1つ注意する事がある。転置行列が複素共役にはならないということだ。しかも、実グラスマン数を表す3×3行列と複素数を表す2×2行列の直積空間を考えているわけだが、この2×2行列の方だけの転置を行うことすら複素共役にはならない。というのも、
という性質があるため は実なのだが、上式を見て分かるように の行列要素は困った事に純虚数なのである。つまり、左下の1区画だけは転置ではなく、対角要素の符号を直接反転させる事で複素共役を表すことになる。
では、実グラスマン数が 個ある場合はどうだろうか? これは直感的に最低でも 行列を使う必要がありそうだ。だが、本当にそうなのかは確かめていない。まあ、そろそろ面倒臭くなって来たのでこのあたりでやめておくとする。
こんな感じでグラスマン数も実行列で表現できることが分かったわけで、これでグラスマン数も少し身近に感じられるようになったのではないかと思う。(え? 思わない?)
補足
2個の実グラスマン数を扱う場合、3×3行列より大きい行列で扱う事も可能である。そこで、4×4行列で扱う事を考えてみよう。
まず、
とする。すると、2つのグラスマン数の積は
に対応する。従って、
となる。これを満たせば何でもいいので、例えばこんな感じにしてみよう。
すると、これらの積は
となる。この表現を使えば、
のように、全ての係数が個別の行列要素に対応するようになるので分かりやすいかと思う。実際によく使われる行列表現はこちらのようだ。この方式の場合、 個のグラスマン数単位がある場合には 行列が必要になるようである。